「 江 東 」
周縁の街から
1980年 撮影
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日本カメラ(1981年4月号) ニコンサロン(1986年) |
水の底から泳ぎ上がるように、運河の橋への登りでペダルをこいでいる。振りかえると朝モヤは強い潮のにおいの風に逆らって残っている。土地は水面よりはるかに低い。堤防を見上げる。草付きにカモの一家がいる。かってこの深さは魚たちが住んだ。すれちがう異装の人と別のことばで挨拶を交わす。海の中へひろがりつづける水面下の土地である。はりつく家のその下を抉り、モツ焼き用のブタを飼う檻がある。視界からかみでる集合長屋の角を曲がる。昔、じゅばんしか縫ったことのない老いた針子の家がある。かもめが飛んでいる。道の向こうに、緋のじゅばんをはためかせた女がいる。また運河の橋を越える。息ぎれる周縁の街並がうつつにある。昭和55年11月、そして昭和56年2月もだ。 |