「 箱 崎 」
周縁の街から
1979年 撮影
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日本カメラ(1980年3月号) 「ZOOM」(1995年) ニコンサロン(1981年) |
| たしか、いつも漏斗状の景観を背に、うつ向きかげんだった。風を切っていた。太陽はその底の方にあった。川は背景よりはるかな上にあった。その時、眼は、塩漬の魚のようだった。なみだがあった。街並といいがたいここは潮が満ちていた。言葉にかえ得る音は何一つ聞こえない。人は往来している。今日はバンザイの声は聞こえない。太鼓の音はない。産婦人科の前にまだ車輪の回っている赤い座布団を付けた自転車がある。団体は見かけない。三弦の音がしたはずだ。紅毛碧眼の人がたまに行く。猫が口を開け総毛だっている。思惑でしかない空地がある。戌の日ではない。クレーンが止っている。僕は冷たくなった耳をこすりこすり、箱崎を後にペダルを踏む。 |